卒園生と過ごした夏休み

子どもが当てにされた時代

自分が経験したことを映像として思い出せる年齢は、平均して5歳位からと言われています。昭和20年の終戦を6歳で迎えた私は、真っ暗で蛙や蛇がいるような地下の防空壕で不安な夜を過ごした思い出や、大きな米軍のB29爆撃機の下を蚊のような日本の飛行機が飛んでいる光景を鮮明に覚えています。市川や船橋でも焼夷弾がたくさん落ちました。その翌朝、日の出と共に近所の小学生の後を追って爆弾や砲弾の破片を探すことが楽しみでした。ナイフで傷をつけた松の木に缶をつけて、戦車や飛行機の燃料となる松脂を採集して交番に届けるのも、お国のための子どもの仕事で夢中でした。子どもの遊びが生活の糧となり、大人に頼りにされました。ザリガニやタニシ・イナゴとりは夕食のおかずとして喜ばれ、拾ってきた稲穂を一升瓶に入れ、竹棒でついて脱穀するのも子どもの仕事でした。貧しかったが子どもたちが輝いていました。終戦の翌年、市川の中山小学校に入学しました。教室がなくて、お昼で帰る組とお昼から来る組の二部授業。一学級は54人、教科書はざら紙にガリ版刷りでした。入学式のセピア色のモノクロ写真は、ほとんどがわらぞうり・ぺったんこの下駄で、はだしの子もいました。毛じらみがつかないように、男の子は丸坊主、女の子は短髪。二年生になって男女共学、ようやく午前・午後の授業。それでも半分以上は弁当が無く、駆け足で家に帰った。風呂は三日に一度、近所のドラム缶風呂に入れてもらう「もらい風呂」。隣近所の人々が、お互いに温かい心で物を分かち合い助けあった。貧しかったが、人の温かさがあちこちで見られた心の豊かな時代でした。暗くなると寝て、陽が射すと起きる生活でした。食べるために物を交換したり、自分で工夫したりして、子ども働かなければ生きていけません。私のような母と二人だけの家庭では、子ども心に近隣の人の心の温かさに感謝する日々でした。

森の学校へのチャレンジ

あのときの経験を今の子どもたちにも伝えておきたいと真剣に考えています。今、デンマーク・ドイツを中心に電気も水道もトイレも建物もない森で生活する「森の幼稚園」が普及しています。創立30周年の年、先生たちとドイツのフライブルグの森の幼稚園を訪れ、トイレも手洗い場もない森の中で冬もすごす元気で明るい子どもたちの姿に感動しました。
あれから3年、あちこち森を探し、ようやく鎌ヶ谷市軽井沢の森を譲っていただき「健伸の森」名づけました。自然の環境の中で子どもたちが助け合っていく心と、術と知恵を学習する「森の学校」がねらいです。ネイチャーインストラクターの指導もいただき、当面電気もトイレもない環境でスタートしました。草野キャップは、この夏は健伸の森で過ごしたようです。近所の農家の人たちも畑を提供してくれたり、道具や手伝いをしてくれてとても親切です。私も今年の夏は、園長と共に子どもの生活に自分の時間を合わせてみることにしました。すごく若返った気分で秋の季節を迎えています。
我が幼稚園のスタッフは、お盆休暇以外は研修や夏季保育・プールや小学生のサマースクール・早朝体操…真っ黒になって、よく働いてくれました。

地を走る落雷の音と光

今年、恒例の小学生のための健伸道場・3年生以上は、軽井沢の森でキャンプしました。30名のメンバーは、森の中で本格的な六張テントを設営することからスタート。薪割り・畑にまいたジャガイモやニンジンなどの野菜の収穫・ドラム缶風呂の水汲み・ロープの結び方・まきの割り方・のこぎりや金槌・包丁の使い方・米の研ぎ方・火の燃やし方・ジャガイモやにんじんの皮のむき方まで、毎年手伝ってくれる道場育ちの高校生や大学生の先輩から指導を受けます。
8月7日、夕食の準備中、西空に暗雲が漂い始め、瞬間バケツをひっくり返すような雨が降り、稲光が走り地面が揺れるようなすさまじい雷鳴…全員、幼稚園バスに避難。外灯も無い静寂の中を、高射砲のようにたてつづけに稲光が走り、散弾銃のような激しい雨音と落雷の音響…。地鳴りがするような激しさでした。40分近く空腹を忘れて、肩を寄せ合い語り合って、歌ってすごしました。
今、小学生の放課後学童ルームの待機児童が急増しています。長時間の放課後の缶詰生活から子どもたちを解放して、もっと生活力をつける学習の場を提供してあげることが大切です。そんな願いもあって、この夏休みは卒園生のサマースクールプログラムを企画しました。多くの小学生がさまざまな経験をしました。

五色沼のトレッキング

7月、例年実施している磐梯山・昭和女子大施設での山キャンプ。38名のメンバーに混じって五色沼のトレッキング。緑に囲まれた湖畔で食べた昼食。大きな釜と薪で炊いた米で、自分で握ったおにぎりをむさぼるように食べました。清流でのつかみどりのマスを串に刺して網焼き、夜空いっぱいの星空、月の光のありがたさを知ったキャンプ生活。

レインボーブリッジを歩く

8月、帰省ラッシュでがらがらになった都心を高学年20名、あの派手な「象バス」で都内を走る。行く先々で外国からの観光ツアーに囲まれて、カメラのフラッシュを浴びました。東京タワーから銀座・築地・月島、プロのカメラマンの河口さんを講師に招いて、それぞれにカメラ持参での撮影教室。お父さんから借りたホンモノカメラで本格的な撮影。珍しさに外人ツアーや観光ツアーに取り囲まれた。戸惑いながらも、大人気分、スター気分を体験できた一日。月島でのもんじゃ焼きは、私も子ども味のもんじゃに満足。レインボーブリッジは徒歩で渡りました。

江戸川のハゼつり

7月、夏休に入ったばかりの焼け付くような炎天下、38名の低学年と江戸川河口でのハゼ釣り。仕掛け作りから始まり、絡まった釣り糸の修理、えさの付け替え針の交換…久しぶりのハゼつりは楽しんで参加したつもりだったが、実際は一回も釣り糸をおろすこともなく子どもたちの下僕のような一日でした。

形に見えない幸せ

日本も成熟して、「しあわせ」は「お金で買える」ものから「形で見えない」ものに変わってきました。物の豊かさの教育から、人間本来の何かを発揮する教育「気づき」の教育を子どもにとりもどしてあげることが大切です。大人の行き届いた配慮が子どもの「気づき」を妨げ、余計な「おせっかい」になりがちです。あらためて子どもの知恵と生活力を見直した夏休でした。
新型インフルエンザが流行の兆しです。科学が進歩して人間の生活が便利になればなるほど、大自然の脅威が試練を与えてくるような気がします。地球に住むわたしたちは、時には自然に大して謙虚に語りかけ、自然と共に生活して、自然と共に生きる心を育てていくことが大切ですね。


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